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SIMD-228:批判的分析

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リサーチャーXのLostin
読了時間:25分

本レポートの初期草稿をレビューしてくださった Brady、Mert、Guney、Koen、Vishal、Max に感謝します。

実践的な知見

  • Solana の現行インフレスケジュールは、年率 8% から始まり、1.5% の下限に達するまで毎年 15% ずつ低下する固定の時間ベースモデルです。現在のインフレ率は ~4.68% です。SIMD-228 はこれを、ステーキング率に基づいてインフレ率を動的に調整する数式に置き換えることを目指しています。
  • 影響シミュレーションによると、SIMD-228 は最良および中央値のシナリオでインフレを安定させ、ステーキングを維持し、利回りを持続させます。最悪のシナリオでは、低いステーキング率と高いインフレ率がネットワークセキュリティを脅かす恐れがありますが、これは現在も同様です。
  • 影響シミュレーションによると、SIMD-228 はステーキング率が高いシナリオで、売り圧力を最小化し、混乱に適応し、最終的にインフレ率を低下させることで、市場ベースの発行という目的を達成します。
  • 影響シミュレーションから、SIMD-228 の主な弱点は、ステークが少なく、ペナルティに起因するインセンティブが働く環境(バリデータによる積極的なアンステーキングなどの経済的圧力)で現れることが分かります。こうしたインセンティブは、ネットワークの安定性を脅かし、トークン発行量を増やし、より多くのバリデータを撤退させる可能性があるフィードバックループを生みかねません。なお、他の要因を考慮しなければ、どの曲線もこのようなシナリオでは悪影響を受けます。ただし、提案された曲線は、現行の非弾力的なインフレ曲線よりも早く回復します。
  • 1,316 のバリデータのうち 647(49%)はステーキング報酬のコミッション率がゼロであり、インフレ率の変化が経済的存続性に直接与える影響はわずかです。スーパーマジョリティ外のバリデータでは、この割合はわずかに増えて 51% となり、1,243 のうち 635 のバリデータでステーキング報酬のコミッション率がゼロです。
  • バリデータ経済モデルによると、SIMD-228 のインフレ曲線導入により、バリデータセットは小幅に縮小します。Solana のロングテールバリデータの経済性に大きな影響を与える要因としては、SOL 価格、ネットワーク活動、ブロック報酬の分配率、投票コストなどがあります。
  • 投票コストは依然としてバリデータの主要な支出です(エポックあたり ~2 SOL)。現在、プロトコルはステーク加重に関係なく、すべての投票トランザクションに一律の基本手数料を課しています。Anza は投票コストの大幅な削減に取り組んでおり、年末までにメインネットへの導入が見込まれる新たな投票包含クレジット SIMD を採用する可能性があります。
  • ロングテールバリデータは、取引所運営や機関投資家向けのバリデータを含む他のバリデータ群よりも、ステーキング報酬のコミッション率が低く、インフレコミッションへの依存度も低い傾向があります。100% の固定レートを設定するプライベートバリデータを除くと、現在の平均インフレコミッション率は 2.75% です。スーパーマジョリティ外では、2.68% とわずかに低くなります。
  • 将来のバリデータ収益源に関する予測では、SIMD-96 後に年間収益の 20% 超をインフレコミッションから得るバリデータは、わずか 175 にとどまります。
  • SIMD-228 で当初提案された 10 エポックの移行期間には懸念が示され、現在は 50 エポックに延長されています。シミュレーションによると、移行期間の長期化や導入の遅延は SIMD-228 の有効性を低下させ、高インフレを長引かせるとともに、最悪のシナリオでステーキングと利回りを安定させる能力を弱める可能性があります。
  • Solana の現行の時間ベースのインフレスケジュールは、当初 Cosmos などの同等ネットワークを参考に設計され、動的な市場原理ではなく固定パラメータに依存しています。理想的には、インフレ率は人間の恣意的な判断ではなく、SOL のステーキング利回りに対する需要曲線によって決定されるべきです。市場は本質的に価格発見の効率に優れています。
  • トークンの高インフレは、多くの法域でステーカーが納税義務を果たすために報酬を売却する必要があることから、売り圧力を生みます。現在の年率 ~4.69% のインフレ率と、完全希薄化後評価額 800 億ドルを前提とすると、年間発行額は約 37.5 億ドルに上ります。発行量をわずかに削減するだけでも、年間数億ドルの価値流出を防げます。

SIMD-228 とは?

SIMD-228:市場ベースの発行メカニズムは、Multicoin Capital の Tushar Jain と Vishal Kankani、Anza の Max Resnick が提案した Solana Improvement Document(SIMD)です。現行の固定的なディスインフレスケジュールを、ネットワーク参加状況により迅速に反応する動的モデルへ置き換え、市場ベースのインフレメカニズムを導入することを目的としています。Solana の現行インフレは、年率 8% から始まり、1.5% の下限に達するまで毎年 15% ずつ低下する固定モデルです。現在は ~4.68% です。

SIMD-228 は、次の数式を使い、ステーキング率(バリデータによってステーキングされている SOL トークンの割合)に基づいてインフレ率を動的に調整する仕組みに置き換えることを目指しています。 

i(s) = r * (1 - √s + c * max(1 - √(2s), 0))。各変数は次のとおりです。

  • s はステーキング率です。
  • r は静的インフレ率です(4.68% から始まり 1.5% まで低下する時間減衰関数から算出)。
  • c はインフレ調整を微調整する定数(~3.146、約 π)です。これにより、ステーキング率が 50% 未満では曲線が急になり、33% で静的レートを上回ります。

現行スケジュールから提案スケジュールへ円滑に移行するため、SIMD-228 は次の数式を使い、50 エポックかけて旧レートと新レートを補間することを提案しています。

i(s) = r * (1 - 𝛼√s + 𝛼c * max(1 - √(2s), 0))。各変数は次のとおりです。

  • 𝛼 は最初の 50 エポックで 0.1 から 1 まで増加します。

この提案では、ネットワークの成熟に伴い、ステーカーがブロック報酬や MEV など他の供給源から得る SOL が増えていると主張しています。その結果、ステーキング需要に対して発行量が過剰になり、所有権の集中、高いインフレ率による DeFi での SOL 利用の減少、価格の下押し圧力につながる可能性があります。主な目的は、ネットワークへの参加が活発であることを示す高いステーキング率ではインフレ率を下げ、ステーキング率が低いときはインフレ率を上げることで参加を促してネットワークセキュリティを維持し、トークン発行量と売り圧力を最小化することです。したがって SIMD-228 は、ネットワークの安全確保に必要な最小必要量(MNA)まで発行量を抑えることを目指しています。これにより、分散性を維持しながら売り圧力を軽減し、DeFi での SOL 利用を促進します。 

検討された代替案

ほかに 4 つの代替案が評価されましたが、それぞれの制約から却下されました。

  • 固定レート調整:新しい固定発行率を設定します(コミュニティの意見に基づく場合など)。ただし、市場への反応性がなく、恣意的な判断を招き、コミュニティの意思決定プロセスへの信頼を損なううえ、リアルタイムのステーキング動向を無視してコンセンサスの安全性を損なう可能性があります。
  • MEV を含む固定目標ステーキング利回り:目標利回りを維持するため、MEV チップの 30 日移動平均に基づいて発行量を調整します。市場状況には合わせられますが、追跡を回避する代替的な MEV 支払い方法を促し、設計が機能しなくなる恐れがあります。この提案は MEV の測定を明示的に避け、ステーキングベースの発行のみに焦点を当てています。
  • 比例制御関数:制御関数によって発行量を決め、ステーキング参加率の変動に動的に対応します。ただし、ステーキング参加率が自然に目標を下回った場合でも、発行量が増える恐れがあります。
  • 単一項の数式:提案された SIMD-228 の数式の第 1 項だけで発行量を決定します。ただし、ステーキング率が下がり続け、最終インフレ率が 1.5% に達するエッジケースに対応できません。このような場合、第 2 項によってインフレ率が現行曲線を上回ります。

SIMD-228 の潜在的影響のモデル化

以下のコードはこちらから利用でき、SIMD-228 と、それが Solana のインフレに与える潜在的な影響をモデル化するものです。誰でもシミュレーションを実行し、結果を検証できます。

コードは次のセクションに分けられます。

  • 時間減衰関数
  • 現行の Solana インフレ率
  • SIMD-228 インフレ率
  • ステーキング率の調整
  • シミュレーション関数
  • 可視化関数

時間減衰関数(`time_decay_static_rate`)

この関数は、設定されたエポック数(dynamic_epochs)をかけて、静的インフレ率を初期値(r0、例:8%)から最小値(r_floor、例:1.5%)まで徐々に引き下げます。

線形減衰式を使い、時間経過に伴う制御されたインフレ率の低下をシミュレーションします。

現行の Solana インフレ率(`current_inflation_rate`)

この関数は、Solana の現行インフレモデルを表します。8% から始まり、1.5% の下限に達するまで年率で 15% ずつ低下します。

これは固定スケジュールです。

SIMD-228 インフレ率(`simd228_inflation_rate`)

この関数は、提案された SIMD-228 のインフレ計算式を実装します。

i(s) = r * (1 - √s + c * max(1 - √(2s), 0))

  • s:ステーキング率(ステーキングされているトークンの割合)
  • r:時間減衰関数から得られる静的インフレ率
  • c:曲線を調整する定数(~3.146、約 π)

この数式は、ステーキング率が高いとインフレ率が下がり、低いと上がるように機能すると見込まれています。これにより、インフレ率をネットワーク参加状況に反応させることを意図しています。

ステーキング率の調整(`adjust_staking_rate`)

ステーキング率の調整では、ステーキング利回りに基づいてステーキング率を動的に変更します。実効利回りと目標利回りを比較し、利回りが乖離した場合は、急激な変動を避けるためエポックごとの変動幅に上限を設けながらステーキング率を変更します。

シミュレーション関数(`simulate_with_delay`)

シミュレーション関数は、設定されたエポック数(total_epochs)にわたってシミュレーション全体を実行します。指定されたエポック数(delay_epochs)までは現行のインフレモデルを使い、遅延期間後に SIMD-228 の数式へ切り替えます。

事前定義されたエポック(shock_epochs)で、ステーキング率を一定の係数(shock_factor、例:20% 減なら 0.8)だけ低下させ、一時的なショックを再現します。一時的なショックとは、動的期間中に適用されるステーキング率の一時的な低下と定義します。現実の混乱を模倣し、ストレス下でのインフレモデルの耐性を検証するためです。

実効利回りがしきい値(例:3.5%)を下回ると、追加の「ペナルティ」が適用されます。ここでいうペナルティは、特定の事象に反応したバリデータの積極的なアンステーキングなど、経済的な影響を模倣するものです。

可視化関数

plot_scenario は、単一シナリオについて、遅延期間ごとの結果(インフレ率、ステーキング率、トークン供給量など)をプロットします。

compare_Scenarios は、固定された遅延期間における最良、中央値、最悪のシナリオを比較します。

sensitivity_analysis は、パラメータの変更(c、調整速度、初期ステーキング率など)が結果に与える影響を検証します。

シミュレーションをどう解釈できるか 

コードは、3 つの期間(6、12、24 か月)、複数の遅延期間、異なるシナリオについてプロットを生成します。シナリオは次のとおりです。

  • 最良:初期ステーキング率 70%、ペナルティなし、ショックなし、バリデータコミッション 5.87%
  • 中央値:初期ステーキング率 65%、ペナルティなし、エポック 200 でステーキング率が 20% 低下するショック、バリデータコミッション 4.38%
  • 最悪:初期ステーキング率 30%、ペナルティ 3%、エポック 100 と 300 でステーキング率が 30% 低下するショック、バリデータコミッション 3.66%
  • 最悪・ペナルティなし:初期ステーキング率 30%、ペナルティなし、エポック 100 と 300 でステーキング率が 30% 低下するショック
  • 最悪・小規模ペナルティ:初期ステーキング率 30%、1% の小規模なペナルティ、エポック 100 と 300 でステーキング率が 30% 低下するショック

主要指標は次のように解釈できます。

総供給量

  • 示す内容:5 億 5,000 万 SOL から始まるトークン供給量の増加
  • 解釈:
    • 遅延期間:現行のディスインフレモデル(8% から開始し、年率で 15% 低下)に基づいて供給量が増加します
    • 動的期間:遅延後、SIMD-228 がインフレ率を下げる場合、増加が鈍化します(ステーキング率が高いほどインフレ率が低下)
  • 例:他の条件(ペナルティ、ショックなど)が同等なら、最良のシナリオ(ステーキング率 70%)では、最悪のシナリオ(30%)より供給量の増加が緩やかになります

ステーキング率

  • 示す内容:ステーキングされているトークンの割合
  • 解釈:
    • 遅延期間:一定
    • 動的期間:利回りに基づいて調整されます。高い利回りはステーキングを増やし、低い利回りやペナルティは減らします
  • 例:最悪のシナリオでは、ショック(shock_std=01)とペナルティ(yield < 3.5%)によって、変動や下降傾向が生じる可能性があります

インフレ率

  • 示す内容:年率換算のインフレ率
  • 解釈:
    • 遅延期間:現行モデルに従い、4.68% から 1.5% まで低下します
    • 動的期間:SIMD-228 に切り替わり、ステーキング率が 1 - √s を通じてインフレ率を引き下げます。
  • 例:中央値のシナリオ(ステーキング率 65%)では、最悪のシナリオ(30%)より滑らかに低下するはずです

ステーキング利回り

  • 示す内容:手数料をゼロにするバリデータの傾向に合わせ、4.12% のコミッションを仮定した後のステーカーの年間実効利回り。
  • 解釈:
    • 遅延期間:利回りは現行インフレ率をステーキング率で割った値を反映します
    • 動的期間:利回りはインフレ率とステーキングの変化に応じて調整されます。ステーキング率が高い場合、インフレ率を抑えながら利回りを維持できます。
  • 例: 最良のシナリオでは、ステーキングが安定しているため、高い利回りをより長く維持できます

感度分析

  • パラメータ c:
    • c が高いほど(例:2.5 と 3.5 の比較)、ステーキングがインフレ率に与える影響が増幅されます。利回りを過度に抑制しないか確認する必要があります。
  • 調整係数:
    • 値が大きいほど(例:0.01 と 0.1 の比較)、ステーキングの反応性が高まります。振動や反応の遅さがないか確認する必要があります。
  • 初期ステーキング:
    • 開始時のステーキング率が高いほど(例:30% と 70% の比較)、インフレ率が低くなり、利回りが改善します。システムが初期値にどの程度依存するかを評価する必要があります。

シミュレーションから分かること

本分析では、対象期間を今後 24 か月に限定しました。モデリングコードを編集し、新しいシナリオを追加して、異なる期間のグラフを自由に作成できます。これらのシナリオは ceteris paribus(他の条件が同じ)で実施しており、MEV、ネットワーク活動、また可決された場合に SIMD-228 の実装前に提案・実装され得る多数の他の SIMD は考慮していません。ここでは、SIMD-228 自体の長所と、異なる条件下でインフレにどう対処するかだけを評価します。 バリデータセット全体の経済性については、後のセクションで扱います。

以下のチャートは、Python スクリプトが Matplotlib でプロットしたシナリオのうち、一部を選んだもののスクリーンショットです。

パラメータの調整とチャートのプロットを続ければ、さまざまな潜在的条件をシミュレーションできます。ただし、傾向は明確です。シミュレーションから次のことが読み取れます。

  • SIMD-228 は最良および中央値のシナリオでインフレを安定させ、ステーキングを維持し、利回りを持続させます。
  • 最悪のシナリオでは、低いステーキング率と高いインフレ率がネットワークセキュリティを脅かす恐れがありますが、これは現在も同様です。
  • 導入の遅延が長いほど、特に最悪のシナリオで、初期トークン供給量が増え、利回りが低下するため、シナリオ比較で示したようにリスクが増幅します。 
  • 最良および中央値のシナリオでは大規模バリデータが安定性の恩恵を受ける一方、最悪のシナリオでは小規模バリデータが深刻なリスクに直面します。コミッション控除後の利回りが採算ラインを下回るためです(2~3.5% に対してロングテールは 3.66%)。投票コストの削減や他のインセンティブで緩和されなければ、撤退、統合、または他の収益源の模索を迫られる可能性があります。
  • SIMD-228 は、ステーキング率が高いシナリオで売り圧力を最小化し、混乱に適応し、最終的にインフレ率を引き下げることで、市場ベースの発行という目的を達成します。
  • シミュレーションから、SIMD-228 の主な弱点は、ステークが少なく、ペナルティに起因するインセンティブが働く環境(バリデータによる積極的なアンステーキングなどの経済的圧力)で現れることが分かります。こうしたインセンティブは、ネットワークの安定性を脅かし、トークン発行量を増やし、より多くのバリデータを撤退させる可能性があるフィードバックループを生みかねません。なお、他の要因を考慮しなければ、どの曲線もこのようなシナリオでは悪影響を受けます。ただし、提案された曲線は、現行の非弾力的なインフレ曲線よりも早く回復します。

原則として、SIMD-228 は意図どおりに機能する有望なイノベーションです。ただし、起こり得る悪いシナリオを緩和するため、他の補完措置を続けて導入しなければ、小規模バリデータに悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、バリデータセットの経済性を検討する必要があります。

バリデータセットの経済性モデル

分析を深めるため、将来を見据えたさまざまなシナリオについて、バリデータセットの経済性もモデル化しました。主な目的は、SIMD-228 がバリデータセットの規模に与える潜在的な影響をより深く理解することです。バリデータ経済は複雑で、多数の変数が関係するため、基礎知識がない読者は以前の Helius ブログ記事を参照すると理解しやすくなります。このモデルは、Blockworks Solana ダッシュボードから取得した過去 12 か月の実際の経済データと、Stakewiz API から取得した現在のバリデータセットデータを使用しています。

本分析の一般公開版はこちらの Google Sheet で確認できます。本分析の以前のバージョンを開発した Pine Stake バリデータチームに感謝します。

バリデータセットのシナリオ

バリデータ経済モデルでは、低、中央値、高のステーキング率シナリオを検討します。SIMD-228 では、ステーキング率が低いと発行量が増え、それに伴ってコミッション収益も増えるため、バリデータ経済にはプラスです。このモデルは、インフレコミッション、ブロック報酬、MEV コミッションという 3 つの主要な収益源を考慮し、バリデータを黒字、赤字、損益分岐の 3 つに分類します。損益分岐は、年間利益が -10 SOL から 10 SOL の範囲と定義します。

現行シナリオ

  • ステーキング率:現在のステーキング率 ~63%
  • 現行のインフレ曲線
  • モデル推計:黒字バリデータ 706、損益分岐 13

低ステーキング率シナリオ

  • ステーキング率:35%
  • SIMD-228 インフレ曲線
  • モデル推計:黒字バリデータ 706、損益分岐 12

中央値シナリオ

  • ステーキング率:50%
  • SIMD-228 インフレ曲線
  • モデル推計:黒字バリデータ 689、損益分岐 8

高ステーキング率シナリオ

  • ステーキング率:70%
  • SIMD-228 インフレ曲線
  • モデル推計:黒字バリデータ 685、損益分岐 10

バリデータセットモデルの前提

すべてのバリデータが同等の効率で運用されると仮定します。実際には異なりますが、現実の運用上の差異を組み込むと、分析が不必要に複雑になります。

このモデルでは、バリデータ間の現在のステーク比率が一定に保たれると仮定します。この比率によって、ブロック報酬、インフレコミッション、MEV コミッションの合計に占める各バリデータの相対的な取り分が決まります。現時点の比率をスナップショットとして取得し、異なるシナリオで SIMD とネットワーク活動に関する主要パラメータを調整します。ステークの調整はバリデータセット全体で一律に行われるものとしてモデル化しています。実際には起こりにくいシナリオですが、この近似でも妥当な推計を得られるはずです。

先月メインネットで SIMD-96 が有効化されたことにより、ブロック報酬の 50% はバーンされなくなりました。このモデルでは、トランザクションコストとユーザー体験が変わらないため、プライオリティ手数料と Jito チップの選択に関するユーザー行動も変化しないと仮定します。この前提では、今後、同じネットワーク活動水準に対して、バリデータは SIMD-96 導入前の 2 倍のプライオリティ手数料を受け取ります。その結果、将来のバリデータ経済をモデル化するうえで、ブロック報酬は以前より重要な役割を担います。

推論と現行インフレスケジュールとの比較を簡素化するため、このモデルでは SIMD-228 が即時施行されると仮定しています。ただし実際には、提案が可決されても、メインネットでの有効化まで少なくとも数四半期かかります。

また、分析では次の要因を考慮していません。

  • ブロック報酬を分配する非公開契約
  • サンドイッチ攻撃による利益
  • ステークプールのコミッション
  • Solana Foundation Delegation Program(SFDP)の補助金
  • 発行、ブロック報酬、Jito MEV 以外の代替収益源

シナリオにかかわらず、多くのロングテールバリデータが赤字で運用されていることが分かります。これにはさまざまな理由が考えられます。 

  • 近いうちに黒字化することを期待し、赤字で運用しているバリデータ。
  • 代替クライアントソフトウェア構成を実行するテスト用バリデータ
  • Solana Foundation Delegation Program から投票コストの支援を受けるバリデータ
  • 代替収益源を持つバリデータ(サンドイッチ攻撃者など)

バリデータセット経済モデルから得られた所見

データから得られる最初の所見は、ロングテールバリデータがステーキング報酬のコミッションから大きな収益を得ていないことです。独立系やエコシステムチームのロングテールバリデータは、取引所運営や機関投資家向けのバリデータを含む他のバリデータ群よりも、ステーキング報酬のコミッション率が低く、インフレコミッションへの依存度も低い傾向があります。

  • 1,316 のバリデータのうち 647(49%)はインフレコミッション率がゼロであり、インフレ率の変化は経済的存続性に影響しません。 
  • スーパーマジョリティ外のバリデータでは、この割合はわずかに増えて 51% となり、1,243 のうち 635 のバリデータでインフレコミッション率がゼロです。
  • 100% の固定レートを設定するプライベートバリデータを除くと、現在の平均インフレコミッション率は 2.75% です。スーパーマジョリティ外では、2.68% とわずかに低くなります。
  • 将来のバリデータ収益源に関する予測では、ネットワーク活動が過去 12 か月と同程度に保たれると仮定した場合、SIMD-96 後に収益の 20% 超をインフレコミッションから得るバリデータは、わずか 175 にとどまります。
  • ステーキング率が 35% と低いシナリオでは、黒字および損益分岐のバリデータ数は現状から 1 つ減るだけです。ステーキング率が 50% の中央値シナリオでは 22(3%)減少し、70% と高いシナリオでは 24(3.4%)減少します。

モデルによると、SIMD-228 のインフレ曲線導入によってバリデータセットは縮小する可能性が高いものの、その影響は限定的です(高ステーキング率シナリオで 3.4%)。 Solana のロングテールバリデータの経済性により大きな影響を与える要因には、SOL 価格、ネットワーク活動、ブロック報酬の分配率、投票コストがありますが、このモデルではこれらの変数を一定としています。

SIMD-228 への反対意見

バリデータの経済的リスク

多くの小規模バリデータは、SIMD-123 が可決されるとブロック報酬の「ゼロへの競争」が起こり、運営の収益性が低下することを懸念しています。さらに SIMD-228 も可決されれば、ロングテールバリデータの収益性が一層低下する可能性があります。バリデータセットの経済モデルが示すように、多くのロングテールバリデータは赤字で運用されています。その結果、別の経済的手段の追求、ステークプールへの参加、補助金への依存、ネットワークの利益と一致しない代替収益源の模索、または完全な停止を迫られます。

Laine や Solana Compass などの独立系バリデータはエコシステムに多大な貢献をしていますが、別の経済的手段を追求させることが最善の選択肢とは限りません。X(旧 Twitter)への投稿で、約 50 万のステークを持つバリデータの Chainflow は、価値を吸い上げる側ではなく純貢献者になることで「ステーク獲得に最善を尽くしているにもかかわらず、運営継続には依然として SFDP のデリゲーションに大きく依存している」と明かしました。これは、今年初めに Helius ブログで公開した Solana Foundation Delegation Program(SFDP)の分析とも一致します。小規模バリデータがステークを獲得する現実的な手段は、あまり多くないようです。

ロングテールバリデータにとって、投票コストは依然として主要な支出であり、発行コミッションによる収益を上回ることも少なくありません。現在、プロトコルはステーク加重に関係なく、すべてのバリデータ投票トランザクションに一律の基本手数料を課しています。この負担を軽減するため、Anza の研究者は投票コストの大幅な削減に取り組んでいると述べています。新たな投票包含クレジット SIMD が関わる可能性のあるアップグレードは、年末までにメインネットへ導入される見込みです。ただし、SIMD-228 が可決された場合、その実装時期によっては、削減が間に合わないと懸念する声もあります。根本的な問題へ有意義に対処するため、現在の投票トランザクションを全面的に刷新する長期的な解決策には時間がかかります。

経済安定性のリスク

この提案では、Jito チップという形の MEV 報酬が発行への依存を減らすと仮定する一方、その測定を明示的に避けています。提案がこの仮定に依存しているにもかかわらず、MEV を省くことでステーカー収益を過小評価する恐れがあります。提案内で言及されている 2024 年第 1 四半期から第 4 四半期の Jito チップの変動(4,200 万ドルから 4 億 3,000 万ドル)が示すように、MEV が予想外に減少すれば過剰発行、急増すれば過少発行につながり、バリデータの経済性と SOL 市場の安定性を損なう可能性があります。

さらに、ステーキング率 50% 未満で急になり、33% で静的レートを上回る提案曲線は、最悪のシナリオで見られたように、低ステーキング環境で過度なインフレ急増を引き起こす可能性があります。発行量が MNA を超え、最終的に SIMD-228 の目的と矛盾しかねません。

実装と予測可能性に関する懸念

SIMD-228 はより複雑な市場ベースの数式を導入するため、Solana の予測可能なインフレスケジュールに慣れた一般の人々を混乱させる可能性があります。この複雑さに、エポック移行期間と c 定数の微妙な影響が加わることで、モデルの挙動が誤解されたり信頼されなかったりした場合、コミュニティの信頼を損なう恐れがあります。つまり、この数式は「1.5% に達するまで毎年数字が下がる」よりも、はるかに理解しにくいものです。

特に懸念されるのがエポック移行期間です。当初の 10 エポックの移行は急激すぎて、実質的に Solana の発行に関する「ルールを変更する」ものだという指摘があります。一方、シミュレーションでは、移行期間の長期化や遅延により SIMD-228 の有効性が低下し、高インフレが長引くとともに、最悪のシナリオでステーキングと利回りを安定させる能力が弱まる可能性が示されています。その後、移行期間は 50 エポックに変更され、Vishal が X への投稿で公表しました。 

SIMD-228 への賛成意見

穴の開いたバケツ:インフレの隠れたコスト

SIMD-228 を支持する主な論点の 1 つは、インフレが「穴の開いたバケツ」として機能するというものです。この概念は、Anza の研究者 Max Resnick が最近の X の記事で取り上げました。トークンの高インフレがもたらす主な弊害の 1 つは、売り圧力の増大です。一部のステーカーは、特に特定の法域でステーキング報酬を通常所得と解釈し、納税のためにその一部を売却します。現在の年率 ~4.69% のインフレ率と、完全希薄化後評価額 800 億ドルを前提とすると、新規発行額は年間約 37.5 億ドルです。米国の個人所得税の最高税率は 37% ですが、長期キャピタルゲイン税率は 20% であり、発行に対して実質的に ~17% の「穴の開いたバケツ」税が生じます。法人の場合、所得とキャピタルゲインには同じ税率が適用されますが、キャピタルロスを所得と相殺できないため、SOL の時価総額が変わらなければ発行価値が 21% 目減りします。

政府だけでなく、中央集権型取引所やカストディプロバイダーも、反競争的な慣行を通じてステーキング報酬から多額を差し引いています。Binance や Coinbase などの大手取引所はステーキングに 8% のコミッションを課していますが、現在の競争環境では小規模バリデータには考えられない水準です。これらのプラットフォームは、ユーザーの囲い込みを利用して Solana の発行からより多くの価値を引き出しています。Solana は年間 ~2,800 万 SOL(現在価格で ~38 億ドル)を発行しているため、発行量をわずかに削減するだけでも、ネットワークは年間数億ドルを節約できます。

インフレによる市場の歪みと価格シグナルの力

ネットワークの安全確保に必要な水準を超える過度なインフレは、継続的な価格下落圧力を生み、市場シグナルを歪め、公正な価格比較を妨げます。従来の金融用語で言えば、PoS のインフレは、上場企業が 2 日ごとに小規模な株式分割を実施するようなものです。チャート、ダッシュボード、一般の観察者、個人投資家など、多くの市場参加者は分析にこのインフレを織り込んでおらず、価格認識を誤らせています。

健全な価格チャートは、あらゆるエコシステムにとって最も効果的なマーケティングツールの 1 つであり、トレーダーだけでなくすべての参加者に影響します。心理に左右される暗号資産市場では、価格はシェリングポイント、つまりエコシステム全体の健全性を示す重要な指標として機能します。

市場主導型システムの優位性

Helius 共同創業者の Mert Mumtaz を含む多くの人々が、現実世界のフィードバックを取り入れた市場ベースのシステムの必要性を強調しています。Solana の現行の時間ベースのインフレスケジュールは、当初 Cosmos などの同等ネットワークを参考に設計され、動的な市場原理ではなく固定パラメータに依存しています。理想的には、インフレ率は人間の恣意的な判断ではなく、SOL のステーキング利回りに対する需要曲線によって決定されるべきです。市場は本質的に価格発見の効率に優れており、現実世界の状況に適応できないシステムは脆弱になります。数十億ドル相当の価値を保護するネットワークにとって、これは容認できないリスクです。市場主導の調整がなければ、Solana は中央計画、隠れた脆弱性、長期停滞のリスクに直面します。

ネットワーク利用へのペナルティ

高インフレは、流動性プールへの参加、NFT 取引、オーダーブックへの入札など、SOL の積極的なオンチェーン利用にペナルティを課します。Solana の成熟した堅牢な Liquid Staking Token(LST)インフラは、希薄化を受けずに SOL を活用できるため、こうした悪影響の一部を緩和できますが、追加コストも生じます。具体的には、ユーザー体験上の摩擦、異なるトークン間の流動性分断、LST への交換や LST からの交換で生じ得るスリッページ、希薄化による間接コストから身を守るためにステーキングの仕組みを理解する負担などです。

Kamino 共同創業者の Marius もこの見方に同意し、「ステーキングは資産の抱え込みを促し、金融活動を減少させます……ある意味では、FRB が金利を引き上げ、金融環境を引き締めることに似ています」と述べています。

分析麻痺を避ける:反復的な前進の意義

Sol Strategies の CTO である Max Kaplan は、最近の X への投稿で、精密に間違うより、おおむね正しい方がよいと主張しています。完璧なモデルは存在しないため、モデルを改善する最善の方法は現実世界での実験です。変更前に理想的なデータを待つと、過度な検討によって行動できなくなる「分析麻痺」に陥ります。Kaplan は、この傾向が歴史的に大企業を機能不全に陥らせ、動きの速い競合他社に市場シェアを奪われる原因になったと指摘しています。

暗号資産を取り巻く環境は急速に進化しており、Solana もこの競争環境に合わせて適応しなければなりません。最初の試みは完璧ではない可能性を理解しつつ、合理的に可能な限り速く前進する必要があります。継続的な反復と学習は、停滞よりはるかに優れています。このアプローチは、実用主義、迅速な反復、エンジニアリング主導のイノベーションという Solana コミュニティの精神を反映しています。

この見方に照らし、Solana を主権経済を持つ国家と捉える人もいます。彼らは、Solana の価値は資本を活用して「新たなユースケースと、既存ユースケースのより効率的な実装を実現する能力」にあると考えています。Solana ではトークンの大半がステークアカウントにロックされているため、資本効率が必要です。SOL は代わりに、スワップ、取引、流動性提供、NFT 購入、RWA への投資などに使われるべきです。ステーキング率に注目するより、この遊休資本の蓄えを解放することに重点を置くべきです。 

その延長として、Solana はインターネット資本市場(資本主義の次の進化)の本拠地と見なされています。「資本主義を選べ、Solana を選べ」とまで言う人もいます。Toly が思い描く Solana は、Nasdaq 並みの速度を持つブロックチェーンです。Solana が、より良い金融、資本形成と効率性、デジタル主権、民間通貨、そして資本主義そのものという概念とますます深く結びつく中、人々が Solana の金融政策を改善したいと考えるのは当然です。優れた市場には優れた政策が必要であり、人々は現状に満足していません。SIMD-228 の詳細には異論があっても、インフレ率が高すぎ、何かを変える必要があるという点では一致しています。そのため SIMD-228 は、Solana の使命と思想的に一致すると見なされています。 

結論

本記事では、SIMD-228 の潜在的な影響を明らかにする 2 つのモデルを紹介し、提案に対する主な賛否両論を検討しました。この提案をめぐる広範な議論と論争は、Solana のガバナンスが活発に機能しているという前向きな進展を示しています。ネットワークは、多様なステークホルダーが将来の形成に積極的に関与し、最善と考える道について議論し、提言する段階まで成熟しました。

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